マミヤの忘備録

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紳士はわたしの守護天使?『マイ・インターン』ネタバレレビュー

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こんにちは。マミヤ(@mamiya_7)です。

 

『マイ・インターン』を観てきました。本作は『プラダを着た悪魔』の精神的続編を思わせる雰囲気があって、前々から気になっていました(公式の推し方もそうですが)。そして『プラダを着た悪魔』を見返して本作に臨みましたが、その差異も含めて楽しめるいい映画でした。

以下、本作と『プラダを着た悪魔』のネタバレ込みこみのレビューなのでご了承くださいまし。

最初に主役二人の関係性から見る本作のテーマの考察、その次に『プラダを着た悪魔』との比較です。

 

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お話はこんな感じ。

 

あらすじ

家庭を持ちながら何百人もの社員を束ね、ファッションサイトを運営する会社のCEOであるジュールズ(アン・ハサウェイ)は、女性なら誰しもがあこがれる華やかな世界に身を置きながら、仕事と家庭を両立させ、まさに女性の理想像を絵にかいたような人生を送っているかに見えた。しかし、彼女に人生最大の試練が訪れる。そんな悩める彼女のアシスタントとして、会社の福祉事業として雇用することになった40歳年上のシニア・インターンのベン(ロバート・デ・ニーロ)がやってくる。人生経験豊富なベンは彼女に最高の助言を与え、2人は次第に心を通わせていく。やがて彼の言葉に救われたジュールズは、予期せぬ人生の変化を迎える……。(Movie Walkerより)

 

仕事と家庭の物語

本作は、仕事と家庭をどう両立させるのか、もしくはどう折り合いをつけるのかということを描く。『プラダを着た悪魔』では、仕事の鬼となって家庭が破綻していくミランダを間近に見て、主人公のアンディは彼氏のもとに戻っていくというオチが用意されていたけど、今回の落としどころはそうではない。

 

 

 

 

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意志の強い女性、ジュールズ

ジュールズ(アン・ハサウェイ)はわりと序盤から仕事と家庭の間のジレンマに悩んでいたが、物語後半、専業主夫の旦那の不倫によってそのジレンマがピークに達する。そしてそれに呼応するように、前々から持ちかけられていたCEOを新たに立てる話に傾いていく。仕事量が軽減すれば彼も戻ってくるという一縷の望みをそこに見たのだ。

しかし結果的には、CEOを立てずに自分たちでこれからも運営していくことを決断する(ついでに旦那も戻ってくる)。この夢のための決断に彼女の意志の強さが表れているように思う。

経営している会社は元々、ジュールズが一人で運営していたサイトがひな形であり、その後会社設立までこぎつけ、今や200人を超える社員を擁するほどとなっている。そんな大規模な組織を自ら指揮して大きくしていったのだから、ジュールズの目的意識の高さは半端なものではないだろう。

(旦那自らの選択とはいえ)専業主夫となることを許したり、夢のために意志を通す強さこそが彼女の本質なのである。だからこそ、家族の喪失という危機を迎え、気持ちが揺れ動いたとしても、最終的には夢に忠実であることを選ぶ。

しかしこの選択は彼女だけで成立するようなものではない。もう一人の主人公の支えがあってこそ、この結末を導き出せたのだ。

 

 

 

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やさしき老紳士、ベン

ベン(ロバート・デ・ニーロ)の存在によって本作は明るい結末に向かったといっても過言ではない。彼は妻に先立たれ、生きがいのためにシニア・インターンを受ける。そこで見事採用となり、ジュールズの直属の部下となる。最初は疎ましく思っていたジュールズも、周りからの信頼が厚く、そして自分に対する配慮を欠かさない彼を認めるようになっていく。

物語後半、CEO騒動の渦中で、ジュールズはベンに旦那が浮気していることを告白する。ベンも偶然そのことを知っていた。

ジュールズはベンに、CEOを立てることで旦那の心変わりを期待している旨を話すが、彼の顔は曇ったままだ。ジュールズは号泣しながら「旦那は別の人と結婚するだろうし、娘もいずれは結婚する。一人ぼっちで墓に入りたくない!」と荒れる。

そこでベンはやさしく「うちの墓に入るといい。うちの墓は私と妻で使うにはスペースが広すぎる。」と冗談めかして言う。強く叱咤するわけでも、その選択を否定するわけでもなく、やさしく静観する態度を取る。

ジュールズの最終的な決断は先に書いた通りだが、ただこれだけのことでジュールズの決断に、もっと言えばこの物語の結末にどう影響を与えたのだろうか。

 

 

 

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がむしゃらな女性とそれを見守る紳士

端的に言ってしまうと、ベンが巧みにジュールズの目的を整理していったことにこの物語の結末は左右されている。

ジュールズという女性は、目的意識が高い反面、周りが見えていないことがしばしばあった。例えば、1年以上務める社員の名前を覚えていなかったり、目的地の最短ルートを知らなかったり、デスクの山積みになったガラクタを片づけられなかったり、周りを省みるということをしてこなかった。今までは、がむしゃらに仕事をこなすことで事業を拡大させていったが、それだけではいずれ仕事量が累積するだけでパンクしてしまう。それがやがて家庭の事情にも波及していくのだ。

忙殺される中で、会社の存続と家庭の危機に見舞われて、段々と本来の目的を失っていき、ジュールズは選択を急ぐようになる。

そんな中でもベンがしたことは、整理整頓だ。当初のジュールズの目的は自分のやり方でこのファッションサイトを大きくしていきたいということだった。CEOを立てれば彼女のやり方を通せる環境ではなくなってしまうかもしれない。家庭に入り仕事から遠ざかることもまた同じだろう。目的を見失っていることを説教めいた文句ではなく、「うちの墓に入るといい」という一言で理解してもらう。このさりげないやさしさにベンの経験と人柄が表れている。

 

夢に忠実であれ。怖れることはない。どうなっても一人ぼっちではない、孤独が夢を閉ざすなら、私が支えよう。――という紳士の気概と共に、ベンはジュールズの夢への道を拓いていくのである。(入社したての頃に、ガラクタの山を早々に片づけたことは、この結末を予感させるものでもある。)

 

ベンがここまでジュールズに尽くすのはなぜか。それは尽くすに値する人物であると確信しているからだ。あえてCEOを立てることに強く反対したり、言い聞かせたりするのではなく、静観する態度を取ったのも、道筋を拓きさえすれば、自分で進んでいくとわかっていたからだろう。人間性に惚れ込み、信じているからこそ取れる態度である。

 

 

 

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ジュールズがプラダを着た悪魔にならない3つの理由

ファッションサイトの社長役にアン・ハサウェイをキャスティングするのは『プラダを着た悪魔』を意識してのことだと思うが、なぜその悪魔にならないのか。それには3つの理由があると思われる。

 

1つ、ベンの存在。

2つ、取り巻く環境。

3つ、ジュールズ自身の変化。

 

ではひとつずつみていこう。

 

1つ。今までみたとおりベンの存在なくしてこの映画は成立しない。『プラダを着た悪魔』には、本作のベンのように、アンディ(アン・ハサウェイ)をやさしく静観する態度を持った人物は現れない。ミランダ(メリル・ストリープ)をして「私と似ている」と言わしめるほどに成長したにもかかわらず、アンディはその発言に感情的になり、結局は元カレのもとに戻り、自分を見失っていたという反省に至る。その点ではベンの存在のおかげで、女性でも成り上がる夢を見続けられるという物語に帰着できたのだと思う。

 

2つ。会社や家庭などの環境の違いである。会社のみんなはジュールズの決断についていくし、旦那も最終的にはジュールズへの理解と自らの過ちを反省する。ミランダのように家庭が崩壊気味で、しかも世界的な雑誌のトップとして代わりがきかないというような、ミランダにしかわかることのない「上に立ち続ける孤独」という描き方とは違い、本作は理解し支えてくれる人のために自分の夢へ進むジュールズの姿が描かれる。アンディの立場との違いで言えば、アンディは仕事に理解がない彼氏や友人たちに取り巻かれ、彼らは悪魔にでも魅入られたのだと言わんばかりにアンディを非難してくる。対してジュールズは伴侶の理解と反省もあり、アンディとも違う結末が用意されている。

 

3つ。今まで比較してお分かりになった方もいると思うが、ジュールズはおもしろいキャラで『プラダを着た悪魔』のミランダとアンディの両方の要素を併せ持ったキャラである。ミランダとアンディ、両方の道筋も見えていたのに、この映画はそのどちらをも歩ませない。それは1つ目の理由、2つ目の理由もあるが、さらに彼女自身の変化にもある。その変化とは、周囲を見るようになったということに尽きるだろう。物語当初は、多忙さのゆえに社員とのコミュニケーションはおろそかで、さらに名前を覚えてなかったり、家族サービスも忘れがちだった。しかし(1つ目、2つ目と相互的に作用したからだけど)少しずつ部下たちの名前を覚えたり、ねぎらいの言葉をかけたり、自分なりに努力し、改心した旦那に対しても大きい器量で受け入れた。この物語を通しての彼女の変化こそが、物語を結んでいくのである。

 

3つの理由をみてきたが、どうだっただろうか。悪魔に堕天する話でもなく、その様を見て挫折する話でもなく、それらの折衷のようなストーリーになったのはこのような理由からだと思うのだ。特に、最初のきっかけとして話を展開させるベンの登場は肝心で、まさに彼こそがジュールズにとっての守護天使だったのではないかと、わたしには思えるのである。

 

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余談

レビュー、いかがでしたでしょうか。観にいきたいなぁと思っていて、昨日やっと観にいきました。

 『プラダを着た悪魔』にテンポが似ているなぁと思っていたら、まさか音楽は同じセオドア・シャピロ!音楽がいっしょというだけでも雰囲気は似るものですねぇ(公式の宣伝で刷り込みはあったけど笑)

プラダ~』のパラレルワールドみたいに見えて実におもしろかったです。

ジュールズの初登場シーンで、電話のクレーム対応に四苦八苦する姿はアンディを彷彿とさせるし、ラストのベンがデスクにいないシーンもコミカルに落とすことで、部下を失った『プラダ~』と対比になり、アンディやミランダの違う歩みを観てるようで、感慨深いものがありました(しみじみ…)

とはいえ、『プラダ~』を観ずとも単体でも楽しめると思いますし、けっこうおちゃめなデ・ニーロも観れたりしておもしろいです。

ベンがやたら紳士であることを推したり、クラシカルな趣味があったり、果てはスパイまがいなことをするもんだから、"manners maketh man"って展開になんないかなぁ!と妄想を繰り広げておりました笑(キングスマン大好きです)

それはさておき、飽きさせない工夫もいっぱいあるので『マイ・インターン』おすすめです!

 

というわけで、マミヤでした。

それでは、次のレビューでお会いしましょう。

サヨナラ!

 

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マイ・インターン(原題:The Intern

2015年,アメリカ

配給 ワーナー・ブラザース

スタッフ

監督・製作・脚本 ナンシー・マイヤーズ
製作総指揮 セリア・コスタス
撮影 スティーブン・ゴールドブラット
プロダクション・デザイン クリスティー・ジー
音楽 セオドア・シャピロ
編集 ロバート・レイトン
衣裳 ジャクリーン・デメテリオ
キャスティング ラレイ・メイフィールド

 

キャスト

ロバート・デ・ニーロ
アン・ハサウェイ
レネ・ルッソ
アダム・ディバイン
アンダース・ホーム
ジョジョ・カシュナー
リンダ・ラビン
ジェイソン・オーリー
ザック・パールマン
アンドリュー・ラネルズ
クリスティーナ・シェラー


映画『マイ・インターン』予告編(120秒)【HD】2015年10月10日公開 - YouTube