マミヤの忘備録

ラップ、映像、その他諸々について記したいなぁと思ってます。

オタクの性『ぼんとリンちゃん』ネタバレレビュー

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ぼんとリンちゃん

2014年,日本

配給 フルモテルモ、コピアポアフィルム

 

スタッフ

監督、脚本、撮影 小林啓一
主題歌 40mP
同人誌製作 星野リリィ
製作 マイケルギオン、フルモテルモ

 

キャスト

四谷夏子(ぼん) 佐倉絵麻
友田麟太郎(リン) 高杉真宙
みゆ 比嘉梨乃
蟹江田敬三 まつ乃屋栄太朗
べび 桃月庵白酒

 

 

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あらすじ

男のところに転がり込むように上京した友人「肉便器」を奪還するために、ぼんとリンちゃんが東京に向かう。

 

この映画の見所の一つは登場人物の実在してそうな空気感だと思う。

とくに、ぼんを演じる佐倉絵麻は実際にいそうな「痛い人」をばっちり演出できている。謎の自信にあふれ、早口でまくし立て、知識や他人の受け売りをひけらかす姿は本当に痛々しい。自分もテンション上がるとこんな感じなのかと思うと、ぼんの痛々しさを通してわたしも痛みを覚えてしまう。本作はぼんのセリフが多く、中盤までほとんど彼女の独壇場の様相を呈している。基本的にドライで毒舌なキャラだけど、ときにドヤッたり、わざとらしくあざとい仕草を見せたりして、彼女の話すターンが多いにも関わらず飽きが来ないのがおもしろい。

リンちゃんを演じる高杉真宙も、オタクではあるのだけど周りの目を気にしつつ、結局ぼんに振り回されるというような受身なキャラを好演している。

 

長回しのカットが特徴的な本作、それがこの映画のオタクっぽい雰囲気をよりいっそう高めている。ぼんの話はとにかく長い。ディテールにこだわるし、自分の言ったことを即座に訂正したり、独り言が延々と続くかのような長さだ。出口があるのかないのかわからない妄想の輪の中にいるみたいな気分にもなる。まあ端的に言えば、オタクの話は長いのだ。

こんな感じの独り善がりな態度がぼんの印象として強く残っている。

ぼん本人は嬉々として話しているのだけど、実は周りはそんなについていけてない場面を観ると、(大事なことなので何度も書くけど)わたしも映画やほかの趣味の話をしているときにこんな感じなのかしら、と痛みを覚えるとともに反省したくなるような気持ちになる(反省するとは言っていない)。

 

 

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「肉便器」こと「みゆ」を彼氏の下から奪還するのが目的だったのだけど、いろいろわけあってみゆがデリヘル嬢となっていることを知り、ラブホで再開することになるぼんとリンちゃん。オタク仲間との感動の再開というわけにもいかず、ぼんとみゆの舌戦が繰り広げられる。

「そんなの本当の幸せじゃない!」「人生楽しいだけじゃダメだってじいちゃんが言ってた!」と諭そうとするぼん。「なっちゃん(ぼん)にはわからないよ」と反論するみゆ。結局、舌戦は平行線のまま終わってしまう。このシーン、お互いの主張に正当性があるように思えるのだけど、どこか心許ない雰囲気を感じられるのがおもしろい。

みゆはまったく理解を示そうとしないぼんを「私はなっちゃんの物語のモブキャラじゃない!」と非難する。みゆのためということを主張すればするほど、ぼんの独善的な態度があらわになっていくのだ。ぼんは今までの人生で指針となった言葉を節操なくみゆにぶつけるが、「説得力がない」「(他人の言葉を使って)いつも保険をかけるよね」となじられてしまう。ただ自分の価値観を押し通そうとするためだけに用いられる数々の言葉は、たしかに独り善がりに聞こえるし、なじられても仕方ない。

 

 

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クライマックスでみゆというカウンターをぶつけ、ぼんの独善的な部分がより浮き彫りになっていくのだけど、これはぼんに限ったようなことではなく、誰もが誰もそういう部分を持っているんじゃないかと思う。

本作を観ているときに、映画としての楽しさを享受しつつ、ラブホでぽつねんとするリンちゃんのようにどこか居心地の悪さを感じてしまった。それは、わたしにもこういう部分があるとわかっているからなのだと思うのだ。

価値観の共有やそうしたい願望を誰もが持っているように思うし、オタク気質な人はとりわけその願望が強いと思う。独りきりの満足だけではなく、ある種の共同性に浸ることがオタク気質な人の悦びの一つにあるだろう。しかし、そういった欲望もいきすぎると、ただ自分の考えを押し付けるだけになってしまうこともあるかもしれない。ぼんを通じてオタクの性というものを暴かれたような気恥ずかしさを覚えてしまった。

 

 

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エピローグ、二人はみゆを連れて帰ることに失敗して東京から戻り、プレステ2のゲーム「ico」をプレイしている。自分と相手の価値観の相違、そしてそれが解消できないのを目の当たりにしたぼんは考えを巡らせる。ぼんはわからないことをわかるようになりたいとリンちゃんに話し、楽しみは苦しみを前提にしなきゃいけないのか、じゃあ何のために生きるのか、と自分に問う。「中二病」とも取れるようなニヒリスティックな問いを、ぼんは自分の中で反芻していく。その姿は自分なりにラブホでの出来事を昇華しようとあがいているようにも映る。

ともにゲームをプレイするリンちゃんをときに置いてけぼりにしつつ、独り言のように問いと解を繰り返していく。

答えは到底出そうにないけど、自分が納得のいくまで考え続けていく。それもまたオタクの性なのだ。

 

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余談

こんにちは。マミヤ(@mamiya_7)です。

オタクを材料に会話劇を作ったらこうなるよねぇ、と思った作品でした。タイトルバックが出るシークエンスがマーベル映画のパロディになってたり、引用なども多く画面的にもおもしろかったです。

ヤンキーに絡まれて無一文になった二人が「エマージェンシー・ライン」と称して、靴底から折りたたんだ紙幣を取り出すシーンが個人的にツボ。無一文になった時点で、このネタやるんだろうなと思ってたら後半の緊張した場面になって登場したのでいい緩和剤になりました笑。

 

ということで、また♪