マミヤの忘備録

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かつて明星を失った男が選ぶ結末『007 スペクター』ネタバレレビュー

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007 スペクター(原題:SPECTRE

2015,アメリカ、イギリス

配給 ソニー・ピクチャーズ エンターテインメント

スタッフ
監督 サム・メンデス
脚本 ジョン・ローガン、ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、ジェズ・バターワース
プロデューサー バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン
撮影 ホイテ・ヴァン・ホイテマ
プロダクション・デザイン デニス・ガスナー
音楽 トーマス・ニューマン
主題歌 サム・スミス "Writing's On The Wall"
編集 リー・スミス
衣裳デザイン ジャイニー・テマイム
第二班監督 アレクサンダー・ウィット

キャスト
ジェームズ・ボンド ダニエル・クレイグ
オーベルハウザー クリストフ・ヴァルツ
マドレーヌ・スワン レア・セドゥ
M レイフ・ファインズ
Q ベン・ウィショー
マネーペニー ナオミ・ハリス
ルチア モニカ・ベルッチ
ヒンクス デイヴ・バウティスタ
エストレラ ステファニ・シグマン
デンビ アンドリュー・スコット
タナー ローリー・キニア
Mr.ホワイト イェスパー・クリステンセン

 

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概要

カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』『スカイフォール』と続いてきたダニエル・クレイグ版007の集大成とも言える一作。過去三作の事件の裏で暗躍していた秘密組織「スペクター」がついに姿を現す。過去最大級の敵を打倒するためにジェームズ・ボンドが世界中を駆け巡る。

 

 

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007シリーズの鑑賞履歴は本作の予習のためにと前三作を観たことがある程度で、過去のシリーズはまったくと言っていいほど知らない。だけど、最初のガンバレル・シークエンスから醸し出されるヴィンテージ感になにか先祖返りのようなものを感じた。今までダニエル版しか観たことがないにもかかわらず、過去シリーズへの回帰を感じることができるのは、まさに歴史ある007シリーズだからこそと言えるだろう。

 

本作のタイトル『スペクター』は敵の組織名なのだけど、この言葉はさらに多義的な意味を含んでいる。つまり、冒頭の「死者の日」やOP映像でも示唆される過去の亡霊との対峙を意味するタイトルにもなっているということだ。過去の亡霊との対峙とはまさに、前三作を通して描かれた因縁との対峙であり、本作ではその清算が描かれるのだ。

 

思えば前三作もまた過去の因縁が大きな要素の一つとなっていた。各作品を簡潔に見ていこう。

カジノ・ロワイヤル』では、ヒロインのヴェスパー・リンドが愛のジレンマというべき状況の中で自死を選ぶ姿が描かれる。これが本シリーズにおけるジェームズの永きに渡る暗夜のきっかけともなっている。

続く『慰めの報酬』では、相棒のカミーユが自らや家族が受けた仕打ちへの報復として宿敵を討つ。本シリーズでは唯一ボンドガールが自らの手で因縁の相手に決着を付けるのだが、仇を討った彼女は「メドラーノは死んだけど、それがなに?」と気持ちを吐露し、ビターな後味を感じさせる。

スカイフォール』では、どんなときでも最後はジェームズを信じる姿勢を取っていた上司「M」の死が描かれる。イギリスのためとはいえ、過去に部下のシルヴァを見捨てることとなってしまい、狂気に陥った彼に命を狙われることになる。結末はある意味その因果を感じるものとなった。しかし、狂気に陥ったシルヴァの腕ではなく、深い信頼関係で結ばれていたジェームズの腕の中で息を引き取ったことは、せめてもの慰めとなったように思う。

 

と、このようにジェームズ以外にも「亡霊」に取り巻かれる者たちの話が前作まででも描かれていた。そして本作『スペクター』ではジェームズ自身の亡霊を払う物語が紡がれるのだ。

 

 

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本作の事件、そして本シリーズの一連の事件を裏で操っていた秘密組織「スペクター」、その首領であるフランツ・オーベルハウザー(=エルンスト・スタヴロ・ブロフェルド)がジェームズの因縁の相手として登場する。

後半でブロフェルドは、ジェームズが幼少期に身を寄せていた養家の息子だったことが判明する。つまり、二人は義兄弟なのだ。過去にブロフェルドは父の寵愛を受けて育つジェームズに嫉妬と憎悪を覚え、自らに愛を向けない父を殺害した。そして自らの死を偽装してジェームズの前から姿を消した。

かつて自分を巣から追いやったカッコウへの復讐を果たす、そのためにジェームズの前に立ちはだかるのだ。ジェームズが遭遇した一連の事件、重ねてきた悲しみ、それらがブロフェルドの手によるものとわかったとき、本シリーズの因縁に終止符を打つにふさわしい相手だ、という高揚感を覚えた。

 

ブロフェルドのキャラ造形としておもしろい点はそのたたずまいにもあるだろう。飄々としていてときにはおどけるなど、一見すると極悪人には見えない。だからこそ数々の所業が彼の采配によるものだとわかるときに、彼の悪役としての恐ろしさが強調される。ブロフェルドは基本的に、マイペースな雰囲気を保っている。ジェームズへの拷問の際にもフラットな調子を保ち、軽口まで叩く。そんな姿に狂気すら覚える。

狂気といえば、『スカイフォール』の敵役であるシルヴァも狂気に陥った人物だった。ファニーなたたずまいがより恐怖を増幅させているところも共通している。シルヴァは母性(M)に執着し、心中を図ろうとし、ブロフェルドは父性に執着し、ジェームズを葬ろうとするなど両者とも家族愛への歪んだ執着を持っている。

違いももちろんある。シルヴァは過去の度重なる拷問と、Mを信じそれに耐え抜いたが救出されなかった絶望によって、精神に異常をきたしているように描かれている。一方、ブロフェルドは養子としてやってきて家族同然に寵愛を受けるジェームズに憎しみを覚え、父を殺すに至る。

シルヴァは経緯を考えれば狂人になってもおかしくないように思えるが、ブロフェルドの場合は単純に自らの身勝手さによって悲劇を招いた。ある意味、ブロフェルドは根っこから狂気を持っていたのだ。

前三作の事件の裏でブロフェルドが暗躍していたとわかったときに、『カジノ・ロワイヤル』や『慰めの報酬』に母体の組織としてスペクターが絡んでいるのは納得できたが、『スカイフォール』での事件はシルヴァの私怨だからどうなのかな、と思っていた。しかし、シルヴァの家族性への執着にブロフェルドが共感し、そして彼の協力によってシルヴァの大規模な犯行が可能になったのかもしれない、と考えるとシルヴァとブロフェルドにも繋がりはあるように思う。

 

 

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そして、メインのボンドガールもジェームズとの因縁を感じさせる。マドレーヌ・スワン、『カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』にも登場したMr.ホワイトの実娘であり、ジェームズの暗夜を明かすことになる女性だ。

ジェームズとマドレーヌが結ばれる過程は少々説明不足な感もあるが、吊り橋効果的に愛が芽生える展開というのは、007シリーズに限らずアクションものには付き物ではある。ロジカルな表現ができないほどに二人が惹かれあっていき、逢瀬へとなだれ込むシーンは、愛の語り尽くせなさを感じる。

とは言っても、マドレーヌの魅力は演じたレア・セドゥによるところが大きく、マドレーヌ自体のキャラとしての魅力は乏しい(行動がわりと支離滅裂だったりなど)。逆にマドレーヌのキャラの弱さを、自身の女優としての魅力でカバーしたレア・セドゥを賞賛するべきなのかもしれない。

 

 

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クライマックスは前三作に対するセルフオマージュ的な展開になる(ダニエル版以外のオマージュも多いらしいのだけども)。

マドレーヌがブロフェルドの手に落ち、ジェームズが救出のために奔走する過程は『カジノ・ロワイヤル』でのヴェスパーとの別離を思い出させる。結果的には救出に成功し、ヘリで脱出を図るブロフェルドを乾坤一擲の一撃で仕留める。

橋の上で負傷したブロフェルドに銃口を突きつけるジェームズ。早く撃てというブロフェルドの挑発に乗らず、弾を抜き、Mに身柄を引き渡す。この場面もまた『慰めの報酬』のラストを思わせる。ヴェスパーの件以上の残酷な真実を突きつけられてもなお、あのときと同じく、最後は00ナンバーとしての任務を遂行する。その姿は『スカイフォール』で殉職した前任のMの信じたジェームズ・ボンドのままだった。

愛する者たちを多く失いながらも、私怨を晴らそうとするのではなく、使命を全うすることで自らの因縁に終止符を打つ。それがジェームズ・ボンドの選んだ答えだ。

 

ジェームズはその後MI6を辞職するのだが、事件解決後にQのもとに現れ、前作で廃車同然になり修理していた私用車のアストンマーチン・DB5を引き取る。最後は、添い遂げることを決心したジェームズとマドレーヌが颯爽とDB5で走り去るシークエンスで幕を閉じる。

 

 

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最後に本シリーズを総括してみよう。

一度は影の仕事を辞める決意を固めたジェームズだったが、ヴェスパーという「宵の明星」を失うことで闇の世界へとさらにその身を浸すこととなった『カジノ・ロワイヤル』。

復讐者であるカミーユを通して私怨を晴らすことのむなしさを知った『慰めの報酬』。

「天が堕ちるとも正義は為されるべし」というボンド家の家訓の如く、殺しのライセンスを持つ者としての使命を果たした『スカイフォール』。

そして、前三作を通して描かれた007としての在り方を貫き、マドレーヌと添い遂げることで殺しのライセンスの返上が最後に描かれた『スペクター』。明星を失ってからの永き暗夜を超えて、ジェームズに夜明けがもたらされるのだ。

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余談

こんにちは。マミヤ(@mamiya_7)です。

今年がスパイ映画豊作の年なのは知ってる方も多いと思います。『ミッション:インポシッブル/ローグ・ネイション』『キングスマン』『コードネーム U.N.C.L.E.』と下半期から立て続けに公開されました。そして満を持してスパイ映画の元祖、007シリーズが今年のスパイ映画のラストを飾ることになるというのはおもしろい流れですね。

もうダニエル・クレイグ版のボンドはここで完結してしまってもいいんじゃないか、と思うほどの結びだと思いました。もしくは続編があったとしても、『ミッション:インポシッブル/ゴースト・プロトコル』みたいに最愛の人は生存させてほしいなぁと(噂に聞く『女王陛下の007』のオチは避けてほしいところ!)。

殺しのライセンスを返上したボンドがカムバックするのか、また新たにボンドをキャスティングするのか、今から楽しみではありつつも怖いところです。いずれにせよ、新作をやるあかつきには観に行くとは思いますが。

 

ちなみに本作を観るきっかけになったのは『キングスマン』でした。『キングスマン』には昔の007オマージュが多く、今のボンド映画とはテイストが違うということをツイッターなどで知りました。じゃあ、そもそも今の007ってどんなだろうと思い(ちょうど『スペクター』をやるということもあり)ダニエル版を遡って観たという次第です。

『スペクター』はダニエル版だけでなく、さらに過去のシリーズへオマージュが捧げられているということで、他の過去作も遡ってみたいなと思っています。そこから『スペクター』や『キングスマン』を見返すと新たな発見がありそうで楽しみです。 

 

本作のタイトル『スペクター』は過去との対峙を示唆していると本文で書きましたが、それは007シリーズ自体も含んだものだと思っています。ショーン・コネリーをはじめとして、過去さまざまな俳優を主役に据えて制作された007シリーズ、『スペクター』はそれら過去作で描かれたシチュエーションを、現代のジェームズ・ボンドならどう立ち向かうのか、ダニエル・クレイグならどう演じるのか、サム・メンデスならどう演出するのか、という挑戦の意味も込められた作品だったのかなと思います(代わりにダイジェストのように映るところもありましたが)。

ダニエル版より前のシリーズを観たことがないのでほぼ妄想の域ですが(なので余談に書いてます笑)。

 

ただ、作品としては『スカイフォール』のほうが好きで、あの絵画みたいな印象的な画面作りと比べると、そういう部分は鳴りを潜めてるなぁと思いました。過去作への回帰というか折衷を目指していたのもあるんだろうなと。

とはいえ、冒頭の「死者の日」のワンカット風の一連のシーンはめちゃめちゃかっこいいです。女性をこましてベッドイン!…せずにホテルの窓から屋外に出て、ダクトなどを軽やかに闊歩するボンドはいつになく余裕があり、その頼もしさが新鮮でした。目標のスナイプ後、建物の倒壊に巻き込まれ、ソファに吸い込まれるように着地するお茶目さも、ピリピリムードが多かった前作までを知ってるのもあってか新鮮でした。

他にもマドレーヌ役のレア・セドゥの魅力は言わずもがなで、Qなど脇を固める仲間たちの彼らなりの活躍など見所がいっぱいありました。特にベン・ウィショーの出番が多くてうれしかったです!(優男なメガネキャラなのに逃走劇をすることになるとは笑)

 

本作は一本の映画としてももちろん楽しめますが、捧げられたオマージュを感じられればまたべつの楽しみが得られそうな気がします。いろんな切り口から攻めていって007シリーズの歴史を感じるのもおもしろそうですよねぇ。

 

ではでは、次のレビューで♪