マミヤの忘備録

映像作品、ラップ、その他諸々について記したいなぁと思ってます。

【感想】ガールズバンドクライ 第8話「もしも君が泣くならば」

桃香の歌が巡り巡って桃香自身を救うって流れが美しかった。

いつもより長めになっちゃったけど8話の感想、ゆるりとお付き合いを。

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導入として桃香の高校時代から始まったとこにさっそく撃ち抜かれた。「難しいからこそ退路を断つんだよ」不安がるメンバーを鼓舞して、4人全員で退学することを推したのは桃香なことがわかった。桃香の声色が今よりも溌剌としてて、元はポジティブなフロントマンだったんだなと想像させる。

現在――トゲナシトゲアリの初ライブ後。帰りの車内は最悪の空気。パーキングで仁菜と桃香の言い合いに発展する。いつものように話を切り上げ立ち去ろうとする桃香に「逃げるんですか」と切り出す仁菜。瞬間、胸ぐらを掴み、桃香が拳を掲げる。「桃香さんのこと軽蔑できます。あいつらと同じなんだって」殴りたければ殴ればいいと煽る仁菜の胸ぐらを離す桃香

昔受けた傷を皮肉気味に語りながら、力には絶対に屈したくない仁菜の芯の強さが描かれた。その強さはあまりにも歪だけど、閉塞的な環境を生き抜いて本人なりの論理が磨かれたことが伺える。

それぞれが帰路に着く中、すばるは終電がないにも関わらず桃香の部屋に行く。トゲトゲへのオファーや数字の盛り上がりなどで、仁菜が描くプロへの道が夢物語ではないことを伝える。「みんな、いつまでもキッズじゃないってこと。あとは桃香さん次第かな」と桃香を焚き付ける。

桃香以外、元々モチベーションが高いやつらしかいなかったから当然の結果で、あとは桃香の決意だけがバンド完成への最後の鍵。終電を逃してでもバンドの状況を伝えて、桃香と仁菜が良い方向に向けるよう動くすばるもまたトゲトゲにはなくてはならない存在だ。

奇しくも高校時代の桃香と同じ言葉を仁菜が言っていたことを知ったときの桃香の表情がやはり良い。今回の話の主人公だし、ヒロインだなと。

ミネからもらったギターを川沿いで弾く仁菜。自由を謳歌してるかと思いきや、その責任を取るように父親宛に絶縁状を認め、預金通帳とともに実家に送った。予備校をやめる話は通過点だと思ったけど、まさかここまであっさりとは…というのが率直なところ。

生活はせねばならず仁菜の初めてのバイトは吉野家、同僚は智とルパ。いかにも飲食のバイトに向いてなさそうだが、友達がいるのは救いか。

ルパに対して暴言を放つ迷惑客に、詰め寄ろうとする仁菜。それを自然に制して客に謝罪するルパ。「私にもロックは必要ということです」とルパはすれ違いざまに仁菜に呟く。

今回は仁菜と桃香がメインだけど、ルパのパーソナリティも描きつつ、ロックをやる理由がそれぞれにあるってのをさらっと描くのがすごい好き。なんならここでちょっと泣いてた。

突如、桃香が来店。牛丼(並)を注文後に「このあと時間あるか」と仁菜に尋ねる。ここで「ありま…す!」とふてくされながら答える仁菜がかわいい。

学校でいじめっ子と無理やり和解させられそうになっている仁菜の回想――Aパートの始まりは桃香の高校時代で、Bパートの始まりは仁菜の高校時代。互いの存在をパラレルに描いているのが先の展開も考えると秀逸。

軽トラで桃香とのドライブ。仁菜が連れられて来たのはダイヤモンドダストのライブの舞台袖。『ETERNAL FLAME 〜空の箱〜』を歌う姿を見つめながら「退路を絶って生き残っていくってのはこういうことだ」と仁菜に語る桃香桃香がダイダスを降りたときに、残されたメンバーや新入りのヒナが非難の嵐に晒されたことが表現された。

こういう背景が出てくるとダイダスにもロックをする理由があるし、それが後に描かれてくるのかなと思う。今のSNSの流れを思うと、こんな誹謗中傷の中でバンドマンとして歯を食いしばってステージに立つダイダスのメンバーも相当覚悟が決まってる。

バンドのためにやりたくないことをやるかどうか、その狭間で桃香はやらない選択を取った。そして仁菜と出会い好きな歌を歌う姿に、昔の自分と重ね合わせ「あのときの仁菜は、私が好きだった私なんだ。あの頃の私なんだよ」と気持ちを吐露する。

ロックをやるモチベーションの一つに初期衝動(使い古された言葉かもしれんが)があると思うんだけど、"好きな歌をしがらみもなく歌う姿を横でずっと見ていたい"、仁菜に出会ってからはこんな素朴な気持ちを内に秘めてたのかと。桃香のロックはあまりにも繊細で優しい。

「私の気持ちはどうなるんですか」と仁菜が叫び駐車場に走り出す。桃香が仁菜の手を引き、止めようとするがその瞬間、仁菜の平手が桃香の頬をはたく。「私はあなたの思い出じゃない、あなたの思い出に閉じ込めないでください」――高校時代の回想、いじめっ子と和解の握手を求められた仁菜はたまらず放送室に向かう。『空の箱』を流して、自身に向けられる理不尽にささやかな抵抗をした。

ここでの仁菜の平手、桃香の殴ろうとするシーンとパラレルになっているが、仁菜は平手を見舞った。かたや暴力を制し、かたや暴力を行う。仁菜の行動が支離滅裂に映るかもしれないが、おそらく仁菜にとって論理のある行動になっている。

仁菜は自分を押さえつけようとする力に対して徹底的に抗う性分で、そこに物理的な暴力や心理的な威圧、権力での規律といった境はなく、何にでも抗う――酔っ払いのサラリーマンをライトで迎撃したり、いじめをなかったことにする父親に本を投げたり、抑圧に立ち向かう姿は要所で描写されている。

こういう性分だからこそ、桃香が仁菜を思い出の中に閉じ込めようとする身勝手さや辛い思いをさせまいとする優しさが、仁菜にとっては自身を抑圧する力に映ったのだと思う。

仁菜はその優しさを振り払い「あなたが守らなきゃいけないのは思い出の中のあなたじゃない。自分の歌を誰かに届けたいという気持ちです」と諭し、高校時代に桃香の歌に出会ってから今までの時間全てをさらけ出して「私で逃げるな」と縋る。

仁菜にとっての命の恩人が、自分のせいで音楽の道を諦めようとしてるのは絶対に許せないっていう気持ちの爆発が心地いい。すれ違ってすれ違って、ここまで吐き出してやって正面衝突する気持ち。3Dであそこまでの泣き顔の演技を見せられるのもすごかった。縋られる桃香の"ここまで想われてると思ってなかった"って呆然とした表情が対比としても良い。

「ももかん…」ライブを終えたダイダスのメンバーたちが声をかける――その瞬間、仁菜を置き去りにして軽トラに乗り込み、走り出す桃香。仁菜がそれを阻むように身を挺して車を止めさせる。仁菜との押し問答、ダイダスのメンバーたちの呼びかけに耐えられずクラクションを鳴らす桃香。仁菜がそっとその手を止め、ダイダスのナナ、リン、アイが語りかける。

「私たち後悔してないから、これで上まで行ってみせるから、間違ってなかったって言ってみせるから」

それに対して「私たちが正しかったって言いますから」と仁菜が応答し、それに呼応するように「あんなクソみたいな演奏してよく偉そうなこと言えたもんだな」と桃香が吠える。それを聞いて懐かしそうな表情をするナナ、リン、アイ。桃香と仁菜は小指を立て「同じフェスに出る」と宣戦布告し、会場をあとにする。

桃香にとって悔恨だった残ったメンバーたちとの関係が氷解した瞬間だった。まだ雪解けとまではいかないけれど(宣戦布告したし雪解けってのも違うか)。

この一連のシーン、仁菜とダイダス側どちらもが桃香の再起に必要なピースになってる流れが好き。桃香と仁菜では言葉をぶつけ合う状態で、桃香とダイダスではそもそも桃香が交わろうとしない。仁菜が桃香の退路を絶ったあとに、ダイダス側が気持ちをぶつけ、それを聞いて火がついた桃香と仁菜で宣戦布告するっていう、特殊な状況になったからこその桃香の再起。もう一度、桃香自身の初期衝動を取り戻すには過去を懐かしむだけじゃなく、過去の桃香自身をちゃんと受け入れる必要があったんだなと。「私たち、忘れないから」というナナの言葉に過去の自分たちを思い出す桃香。かつての夢を思い出すカットを吹っ切れた瞬間にするのが良い。過去を大事にしながら、未来に進むことを決めたと。

車内でのエピローグ。すでにこの記事、あらすじだけ取ってもだいぶ書いたしもう野暮かなとも思いつつ、やはり一番食らったとこだから最後に書きたい。

桃香に対して"告白"する仁菜。その言葉を聴いて、嗚咽を漏らし、徐々に泣き叫ぶ桃香――その姿を察して、仁菜は車内でかけていた桃香の歌う『空の箱』の音量を上げる。仁菜の頬にも涙がつたう。

今回の物語は仁菜やダイダス――かつて桃香の歌に助けられ支えられてた存在が桃香を救うって流れだったけど、言い換えれば桃香の歌が桃香自身を救ったとも言えるのかなと。過去を懐かしむだけじゃなく、桃香自身のロックを取り戻す物語のオチとして、『空の箱』で泣き叫ぶ桃香と仁菜を映すのは本当に好きな演出だった。

桃香を救出したあとのトゲトゲメンバーの反応はそれぞれあれど、すばるとルパが動じていないとこに信頼を感じる。「これ知ったら絶対やめられなくなる」のは桃香も同じなわけだ。

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見事に泣かされまくり。アニメやら映画見てると「この作品(あるいはこのキャラ)はおれだ」みたいな気分になるときがたまーにあるけど、そういう感慨をアニメで上手く表現するとこうなるのかなぁと思った。EDの『誰にもなれない私だから』でハッとさせられるところもセットで良い演出。

今回、仁菜のめちゃくちゃさの極みとして、平手でぶったのを自ら車で轢かれかけることでチャラにするってのがあった。そんなめちゃくちゃなやつなのに仁菜なりの論理があるからか、行動の違和感よりもある種の一貫性を強く感じるのが面白いところ。

仁菜の予備校退学、桃香の再起、ダイダスへの宣戦布告、仁菜とヒナの再会って描かれてる要素が多すぎてね。脚本の花田十輝もすごいけど、これをまとめあげた酒井和男監督もめちゃすごい。このドライブ感マシマシな流れで、ギリギリ視聴者が振り落とされないところをキープしてて観る側のコントロールが上手い。

ヒナとの確執や他のメンバーのエピソードもまだありそうだし、まだまだ描かれるドラマに期待。

ほんとただの余談だけど、今回のサブタイトルが『もしも君が泣くならば』でゴイステ来たってなってから、その昔、兄貴とドライブ行ったときにゴイステ一緒に聴いたなぁってのを思い出して深夜にちょっと泣いた。『愛しておくれ』とかも良い曲よね。

もしも君が泣くならば

もしも君が泣くならば