マミヤの忘備録

映像作品、ラップ、その他諸々について記したいなぁと思ってます。

【感想】ガールズバンドクライ 第10話「ワンダーフォーゲル」

愛を感じられるか。

仁菜への想いしかない第10話。井芹家の物語のケジメとしてこの上ない。

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ライブ後の物販、グッズは売れないがルパのチェキが好調でなんとか活動費は捻出できている様子。そこに芸能スカウトの三浦が桃香たちのもとに現れる——仁菜と同等の勢いで桃香の音楽に惚れ込み、広めようとする意志を見せる三浦。桃香がダイダスに在籍していたときに「今のままでは通用しない」と言われたことを受け、三浦はフェスで爪痕を残すことを提案する。

そのまま事務所に直接繋ぐ形になるとまたバンド外の横槍が入る。それを考えて現状の数字だけではなく現場の熱量を見せ、やりたいことを通せる形でプロになる道筋を作るってのは理に適ってて面白い。その布石として冒頭で、ネットでの数字はあるのに現場での物販はイマイチなところを見せるのもフックになってる。

そしてフェスに向けての新曲は桃香の希望で仁菜の作詞。「見てみたいんだ。"私の歌"が書いた、私の歌を」仁菜との出会いで感じた音楽の楽しさ、もはやそれを隠さない桃香の態度が気持ちいい。

目下、フェスでの目標は決まったがなかなか歌詞の制作が進まない仁菜。智に対して「言葉ってさ、外にあるんだよ」と諭す。

このセリフ、感覚的にわかる人も多いと思う。思考を巡らせていたときには上手いこと筋が通ってたはずが、いざ形にしてみると何だか違うみたいな(ブログ記事を制作してるとしょっちゅうある)。

バイト先へ仁菜の母親が来訪してきたところから事態は転がりだす。住まいも父の宗男に張られ、仁菜はメンバーのもとを転々とする。

9話でもそうだったが、メンバーに話してその意見をフィードバックする姿勢ってのは仁菜の素直さゆえだし、元は育ちが良いんだなと。

家族との別離を話すルパの重い言葉とあえて突き放すことで仁菜をムキにさせる桃香の態度が印象的。前者は、普段は飄々としたルパだからこそ"話せるのなら話した方が良い"ってシンプルな気持ちが刺さる。後者は、いろんなものを乗り越えた桃香と仁菜だからこそのやりとりで、一周回ってこういう時に先輩っぽい雰囲気を出す桃香に成長を感じた。「(仁菜が引きずっているのは)父親が味方してくれなかったことじゃないのか」と仁菜に正論をかます桃香が頼もしい。

実家に着いて早々、剪定されてない枝にぶつかる仁菜、実家の荒れ具合を示唆するようだった。

父と母に見つかり、さっそく家族会議。襖越しに父と話す仁菜。言葉の応酬が辛い。

上京するにあたって全てお膳立てしてきたという父・宗男、全て自分でなんとかしてきたという仁菜。二人の主張は真っ向からぶつかってるように見えるが、実際は目線がかなり違う。生活に困らないようにいろいろ用意してくれてたのは仁菜もわかっていたと思う。それでも実際に上京すると電車の乗り場も降りる場所すらわからず自分の頭で考えないといけない——そんな素朴なことから生活の根幹まで、仁菜自身のことはたしかに仁菜がどうにかしてきた。それを"子どもで庇護される存在だから"と押さえつけられるのは仁菜にとって耐え難い。

話は平行線のまま翌日。宗男は仁菜を連れ、仁菜が通っていた高校に行くことに。そこで学校側の謝罪文を出される。

形式的な謝罪を繰り返す校長に食い下がる宗男。「もうやめて」と制する仁菜。仁菜に対して憤っているだけじゃなく父親なりの罪滅ぼしをしたい意志は見えるけど、仁菜はもはやそんなことを求めてない。愛があるからこその宗男の行動なんだけど伝わっていないのがもどかしい。「お前は被害者なんだ」宗男の愛ゆえの一言が、仁菜にとっては自分の意志を押さえつける力に感じていたんじゃないかと思う。

帰路、気遣う母を無視して自室にこもる仁菜。ここで姉の涼音と会話を交わす場面が個人的にはハイライト。

姉に語られる仁菜の言葉がリリシズムに溢れていて、それに呼応するように宙を落ちているような飛んでいるようなカット。仁菜がロックに出会ったときの高揚感がそこにはあった。『空の箱』に勇気をもらって飛び出し、上京してバンドをやることで本当の自分になれたことを語る清々しい表情。

家から離れたことで本当の自分になれたことを妹から聞かされる——そこに一筋、涼音が涙をこぼす。当時救ってあげられなかった後悔や生きづらさを抱えた妹が救われたことの安堵、いろいろなものがないまぜになった涙だと思った。

自分の心情は涙に任せて「わかった」の一言で済ませる涼音に泣けた。

その後に父と母の想いを汲んで「(父と母は)間違いなくあんたのことを愛してる」と伝え、「ありがとう、生きててくれて。私も愛してるよ、仁菜」と涼音自身の想いも伝える。

本当の言葉を話してくれた妹に対して、本当の言葉で包み込むお姉ちゃんにさらに泣かされた。仁菜の行動原理の全てを理解できないけれど、 多くの時間を共に過ごした姉として、成熟した大人として、ちゃんと愛を伝えようとしてるところにしっかり食らわされた。

仁菜が川崎に戻る朝、聴き慣れた『空の箱』が父の部屋から聴こえてくる。襖越しに会話を交わす中、「良い曲だな」と宗男が発する。

やることなすこと何もかも押さえつけられた仁菜が、突然自分のルーツを認められた。そう、仁菜が欲しかったものはとても素朴でシンプルなものだった。でも同時にとても難しいものでもある。

父の価値観を変えて、自分を理解してもらう——その瞬間が不意に訪れた。

宗男自らが敷いた規律では仁菜を理解できない。だからこそ『空の箱』を、娘が愛した曲をたくさん聴いたのだと思う。娘のことを理解したいと。まっすぐで不器用なその歌詞を読んで、自身を重ねたのかもしれない。結果、心からの言葉で娘のロックを認められた。

その後のシーンは、価値観を認めた上であらためて送り出すという宗男の律儀さが出ていてすごく好きだった。仁菜からしたら自分の愛してる曲を認められただけでエールになってて、そのまま覚悟を決めて川崎に戻るはずだったのに、もう一度ダメ押しのように「行ってらっしゃい」と送り出されちゃうんだから棘の生やしようもない。

ロックを題材にしてる時点で、反骨精神とか反体制的なスタンスは描かれるべきだと思っていて、そこが一番表現されていた話数のように思う。仁菜の反抗から井芹家の規律が崩れていく様はまさにロックだろと。

それとガルクラでロックを描く上で、"成熟と未成熟"がテーマの一つになってるように思う。仁菜も成長はしてるんだけどどこか未成熟な面があって、そのどこまでも変わらないまま規律やシステムに立ち向かう姿勢が今回はより描かれてた。未成熟な仁菜の描写だけじゃなく、姉や母や父という成熟した大人たちが仁菜のひたむきさを認めることで、仁菜の未成熟だけどまっすぐなロックがより浮き彫りになる。そんな演出だったように映った。

あらためて生まれ故郷を飛び出し、生まれ変わった川崎の地で「ただいま」とメンバーに伝える仁菜。

そのままの仁菜でだんだんとポジティブな雰囲気になっているのが感慨深い。モチベーションがパフォーマンスに直結するタイプのボーカルなのでフェスでのアクトに期待が高まる…。

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めっちゃ私的なことだけどお家で作るタイプのカレーが本当に好きだから、涼音との会話で母ちゃんのカレー出てきたときに微笑みながら泣いてた。

仁菜が実家を出るときに、折られた枝のカットが差し込まれた。枝の断面が乱雑な折られ方で宗男の感情が発露してるように見えて好きなとこだった。

紆余曲折あってシンプルに想いをぶつけ合うって展開好きだなぁほんと。

あと、スカウトの三浦が降幡愛なのをクレジットで知ってやっぱり泣いた。酒井監督の作品にまた出てくれて、本当にありがとう。

家族に対する棘が消え去った仁菜がどんな歌詞を書くのか、次のライブシーンめちゃくちゃ楽しみ。