マミヤの忘備録

映像作品、ラップ、その他諸々について記したいなぁと思ってます。

【感想】ガールズバンドクライ 第7話「名前をつけてやる」

仁菜にとっては青天の霹靂、桃香が自身の去就をさらりと突きつける。

大事なことをさらっと言うもんだからゾクっとした。ということで感想。

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冒頭の物販シーン、5人体制バンドで名称が変わる予定の新川崎(仮)のグッズを作って売る仁菜。仁菜なりにバンドへの利益を考えてるのに、それ以上にどうにかしなきゃって感情が逸る。コメディなノリだけど後先を考えない仁菜の性分を最初から見せていくのは7話の展開を考えると良い掴み。

チェキ撮影をやらなきゃ活動がままならない事情が伺える。5話の男バンドマンが嫌った"ガールズ"のノリに頼るしかない世知辛さを描きつつ、ルパの人心掌握に長けた部分も描かれた。誰に対しても笑顔で接するルパの処世術的な振る舞いが、かえって鉄仮面のようで少し怖くもある。

駆け出しの頃にお世話になったアーティストから桃香にオファー。一応、メンバーにも概要を話すが仁菜には勉強の話を持ち出して牽制する。が、ムキになった仁菜によりメンバー5人で参加に。

ライブにあたってバンド名を智とルパの部屋で会議(桃香は不参加)。

仁菜「ちょこれーと」

智「ウンディーネ

すばる「ドリームガール

思い思いにバンド名を上げるがなかなか決まらず。何気に智の「ウンディーネ」ってのが意外で、「beni-shouga」ってバンドを組んでた人とは思えないというか(ルパか元メンバーの発案のバンド名だったのかもだけど)。

夜遅くに帰路に着く仁菜、玄関には痺れを切らした姉の涼音。姉との会話で断片的に明かされてきた仁菜の事情がさらに深掘りされる。父が子育ての本を出すほどのカリスマ教師で、娘の仁菜は同級生にいじめられ、不登校から中退。

いじめを不問にすることで学校に貸しを作ることもできたとさらっと不正の話も出て憤慨する仁菜。その正しさにこだわる姿勢が強調される。

そんな実家に反発して自力で大学進学を目指すという話だったのに、それすらも反故にするとなるとかばいきれないと涼音から忠告。桃香とは別にブレーキをかける人物というのが新鮮で、"正しさ"にこだわる仁菜の姿勢って本当に正しいのかって気持ちになるシーンだった。シンプルに、当初の約束を破ること自体は正しくないだろと。そもそも"正しい"って価値観自体が世間体や規律を気にする親の影響によるものという感じがする。自らの正しくなさを認めた上で、正しさにこだわる展開になったりもするのか。そのときにはバンド以上に家族の問題がフォーカスされそう。

オファーのあった長野県までメンバー全員で車移動。当初の運転手は桃香だったが、マニュアル車の運転に苦戦しルパに交代した。コメディタッチで描かれたシーンだが、孤立する(あるいは人を遠ざけている)今の桃香の立ち位置を感じさせる。かつて2話で一人じゃ部屋のライトも取り付つけられなかった仁菜と重なる部分があった。

パーキングエリアでのシーン。智は母の不貞で一気にスイッチが入り上京したこと、ルパは事故で家族を失っていることを仁菜は知る。頼る人もなく都会をサバイブし音楽に身を捧げる姿勢を見て、桃香と反比例するように仁菜の覚悟が固まっていく。

車中泊の後に今回のライブのオファーをくれたミネに会いリハーサルへ。ミネは嚙み合わない仁菜たちの演奏を「嫌いじゃない」と好意的に受け止め、ライブのラストにセッションすることを提案する。

桃香が駆け出しの頃、”前座のおまけ”みたいな扱いでも堂々と歌うミネに感化されたことをメンバーに語る。その直後に自身の最後のライブになることを伝え「このバンドを降りる」と宣言。引き止めようとする仁菜の言葉をかわすようにその場を去る。

このシーンのあまりにも流れるように脱退を宣言した桃香に虚をつかれた。憂いを感じるところはあったけど、どこか安心しているようにも見えた。やっと諦めがついた安堵感――曲が作れる智、自分より年上で車も運転できるルパが加入して、バンドを降りる理由ができた。自分が降りても仁菜たちが続けたければ、バンドは続けられる。

それに加えて地元に根を張って活動するミネの姿も後押ししたのかもしれない。バンドをやめて音楽を生業とするのはやめても、音楽自体は続けられる。

逆に言えば、バンドを続ける理由や根拠を信じられなかったとも言える。歳を取ると進むにしろ引くにしろ、決断する度に何か理由が必要で、何もわからなかった頃みたく勢いでどうにかできるってメンタリティではなくなる。ミュージシャンとして経験を積めば積むほど、臆病になった部分もあるのだろう。それに自分だけの問題じゃなく、仁菜の人生を現在進行形で狂わせていってる恐れも大きいと思う。

バンドマンの終活としては最善を尽くした身の引き方だった――はずなのだけど、井芹仁菜はそんなことで引き下がる人間じゃないのが大誤算。

飲み会シーン、仁菜の問いに対するミネの回答がシンプルなのが印象的だった。怖くても苦しくても「ステージは言いたいことが言える場所」。だからこそ趣味として割り切らず、生業とするためにステージに立ち続ける。ミネの答えを聞き、バンドを続けるためのとてもシンプルな答えを見つけて湖に走り出す仁菜。明るいテンションなのにどこか不穏さもあるアンビバレンツな雰囲気なのが仁菜らしい。

バンド名も決まらずライブ当日。勢いのまま飛び出した仁菜が観客のシャツの文字を見て「トゲナシトゲアリです!」と名乗る。『ラブライブ!サンシャイン!!』での「Aqours」の文字を砂浜に見つけたときを想起するが、ガルクラの方は何の意図も作為もない文字列というのが面白い。

長いMCをする仁菜に「うざいですよ、自分語りは」とルパが笑顔でヒップアタックを見舞う。言いたいことを言えるのがステージだが、それをどうやって伝えるかってのがライブで、独りよがりではバンドである意味がない。誰かに教えられたり咎められたりしながら、それを指針にして自分なりに道を拓くのが仁菜の良いところではあるだろう(気に食わない説教は聞かないけども)。

歌われる曲はトゲトゲの1stシングル『名もなき何もかも』。バンド名を付ける回でこの曲をぶつけてくるとこが良い。この曲を初めて聴いたとき、後味としては不穏さが残るなぁと思ってたけど、トゲトゲとしての初ライブ時点でメンバーそれぞれが噛み合ってなかったからこそなのねと。この7話までを見越しての長い演出だったと思うとスタッフ間の連携もすごいし、既存曲の活かし方がラブライブともまた違う感じでめちゃ食らった。他の既存曲も上手いこと組み込んでくれるかも…って楽しみが増える。

ライブ中、珍しく仁菜が棘を出して歌っている。赤い棘だけじゃなく真っ黒な棘が画面全体を覆う。漫画の効果線みたいな見た目の派手さも含めて、棘の演出は発明だなと。それと今回のライブ映像は棘の演出で不穏さが強いけど、花火をバックに笑顔でジャンプしたり、妙に明るいカットも挟まれるのが癖になる。

歌い終わりにメンバー全員、そして桃香に向けて「私、予備校やめます」と宣言する仁菜で次回への引き。

桃香が状況に背中押されてバンドを降りることを決めたように、仁菜も覚悟が決まったやつらの言葉や姿勢を見てドロップアウトすることを決意した。バンドマンとして昇天しようとしたら、地の底まで共に連れて行こうとするのが仁菜だ。仁菜にロックを教え、その気にさせた桃香はどうやってその気持ちに答えて行くのか。

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桃香の去就も仁菜が予備校やめるのももっと引っ張るかと思ったら一斉にやってきてびっくり。仁菜は大事なものを取るためだったら、めちゃくちゃシンプルに物事を考えるんだなぁと。短絡的とも言えるけど、それぐらいじゃなきゃロックバンドのフロントマンは務まらないのかも。

バンドと言うと、飲み会でのすばるが仁菜を制して場を取り持とうとするところが好きだった。結果的には滑ってたけど、あーいうバランサーがいてこそバンドって成立するんだろう。

次回のサブタイトルはGOING STEADYより『もしも君が泣くならば』。俺も泣くと思う。