マミヤの忘備録

ラップ、映像、その他諸々について記したいなぁと思ってます。

【感想】ガールズバンドクライ 第4話「感謝(驚)」

演技と本音と感謝と。人情的な4話。

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冒頭の楽器屋の時点で、コミカルだけどどう見ても後戻りできない仁菜の姿が描かれるのが面白い。こういうコミカルな部分も含め、時間の積み重ねを経てバンドを本当にやり続ける覚悟を問う展開になってくるんだろう。

仁菜の思い込んだら一直線な姿勢は、時に宇宙に飛び出すイメージとして描かれるときがある。それぐらい自分の内面に没頭して浸れる人じゃなきゃフロントマンになれないことを示してるように思う。

スタジオ練習のシーンでメンバー間の練度の差が描かれたのが細やかだった。ダメ出ししてさらっとリテイクを要求する桃香、二人よりも明確に楽曲のビジョンが見えているのをさりげなく描くとこは、バンドマンとしてのレベルの差がはっきり表れていた。

急用で帰宅するすばるーーその様子を見て心配そうな仁菜を諭す桃香。ここでも桃香は達観した姿勢を保つが、古巣ダイヤモンドダストの話題を振られると煙に巻きたがる。負けじと詰める仁菜、根負けした桃香から当時の写真を見せられて「こんな顔で笑うんですね」とこぼす。仲間に向ける屈託のない笑顔を、まだ誰にも見せていないことに気づかされる。現在の仁菜と桃香の関係性を仁菜の率直な感想を通して表現するのは、わかりやすさと仁菜の直情的な部分が出てて良かった。

すばるからバンドをやめる旨のメールが届き、二人はアクターズスクールに乗り込む。あれよあれよと、すばるのおばあさま(安和天童)の提案から3人で"恋人のエチュード"をすることに。エチュード内での仁菜の激しいセリフがいわゆるメソッド演技みたくなっていて、仁菜はバンドじゃなくても直情的な表現が合うことがわかる。

すばるとおばあさまの初共演が決まり、さらに不安が募る仁菜を自宅に招くすばる。"すばる"の名が、新人だった頃の安和天童の出世作から取られたことを伝える。すばるが演技の道に進んだモチベーションが「演技をしてみたい」と言ったら、おばあさまが本心から笑ってくれたからってのが、孤独に寄り添うすばるの優しさを端的に描いていて良かった。

おばあさまへの優しさだけではなく、おそらくすばるにはそれなりに演技の素質があって、最初は演技に一本気になろうとしたしてたんじゃないかと思う。高卒認定が得られないリスクがあってもアクターズスクールを選んだのは、おばあさまの喜ぶ顔を見るためだけじゃなく演技に没頭しようとしてたんじゃないかと。

安和天童の孫としてではなく、自分として認められたいすばるが、環境に揉まれて自己を見出す活路をバンドに見出すのは時間の問題だったのかもしれないけれど。演技することを「はずい」と言ったすばる、その内面が深みを増した一連のシーンだった。

女優を目指していないなら早く伝えるべきだと仁菜に諭され、すばるは撮影日に想いを打ち明けることを決める。撮影場所に来た仁菜と桃香、安和天童と仁菜の会話が個人的に今回のハイライト。

娘に役者業をひどく嫌われていることを話す中で、すばるの話題になり「あの子だけは笑ってくれたの。私の仕事、あの子だけが好きだって。やってみたいって。感謝してる」と。大女優の位置に立っても、素朴に大事な人に認めてほしいのがわかるシーンでめちゃくちゃ喰らってしまった。すばるの心情も安和天童の想いも知ってしまった仁菜、棘を出し始めるきっかけが今までと違うのが良い。

仁菜が棘を纏い始めるタイミングが、仁菜自身が納得できないからなのはいつも通りだけど、自分じゃなくて友達やその家族のために動くっていうのが仁菜のまた別の性質を表しているように映った。ただ自分勝手なだけじゃなく、(仁菜の主観が多分に含まれるとはいえ)誰かの事情を本当に考えられる人間だってことがこの上なく表現されていた(逆に自他の距離感がおかしいとも言えるが)。

その後のシーンで、おばあさまに役者の道を降りることを告白しようとするすばるを止めるのも当然で、仁菜の倫理がそれを許さないのだ。去り行く3人を背に微笑む安和天童を見ると察するところがあったようにも映る。

支離滅裂な行動を取る仁菜に声を荒げるすばる。最終的には「本当にやりたいこと」が見つかったら、役者をやめることをおばあさまに伝えるというところに落ち着く。

複雑な事情を複雑なまま受け入れるーーおそらくバンドを組む上で大事な素養を仁菜が得た物語であると同時に、天真爛漫ながらもすばるの覚悟が固まった物語でもあった。

すばるが本心を交えながら激怒する演技で4話は終わる。 「芝居には普段の言動、立ち居振る舞いが滲み出てくるもの」というおばあさまの演技論を、すばる自身として実行する形になっているのが面白い。複雑さをそのまま受け入れてポジティブに居直り、明るく締めるのがすばるらしい。

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子どもの頃の「これやってみたい」という素朴な言葉が誰かの救いになり、時を経て当人の呪いのようになっていく過程が垣間見えて切ない部分もある話数だった。

すばるが本格的に絡み始めてから、仁菜と桃香のいろんな表情や声色がさらに出てきたように思う。演技をテーマにした4話で、トゲトゲのメンバーを演じる理名、夕莉、美怜のいろんな演技を観れたのが嬉しい。特にコミカル面はテンポと相まってキャラの面白さを底上げしてた。「おい!」とか「うそ!!ある!!」とかキャッチーな部分もあれば、「私のことは私が決める!ほっとけよ!」と大事な部分でのパンチラインも良かった。

サブタイトルにもなっているフィッシュマンズの『感謝(驚)』を4話が終わったあとに初めて聴いてみたら、優しい曲調と歌詞の4話とのシンクロに泣けた。サブタイは花田十輝が付けてると思うんだけど、こういう仕掛けをしてくるのもすごく良いなと。

感謝 (驚)

感謝 (驚)

次回のサブタイトルはサンボマスター

ロックに明るくない自分でも、通ったことあるバンドが引用されると声が出ちゃうね。